大判例

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東京高等裁判所 平成元年(行コ)105号 判決 1990年1月30日

愛知県瀬戸市幡野町八一-一一四

控訴人

丸山邦典

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被控訴人

特許庁長官

吉田文毅

右指定代理人上席訟務官

青木正存

同訟務官

小林辰夫

同通商産業事務官

小林進

杉本克治

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一  当事者が求めた裁判

一  控訴人

「原判決を取り消す。被控訴人が昭和六三年七月八日にした、昭和六一年判定請求第六〇〇五八号事件における昭和六二年二月二六日付け判定に対する控訴人の昭和六二年八月八日付け異議申立てを却下する旨の決定を取り消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決

二  被控訴人

主文同旨の判決

第二  当事者の主張及び証拠関係

左記のとおり付加するほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これらをここに引用する。

一  控訴人の主張

別紙「控訴の理由」に記載されているとおりである。

二  被控訴人の主張

特許法第七一条に規定されている判定に処分性がない以上、これに対する異議申立ては不適法であるから、被控訴人がした決定に何ら違法はなく、原判決の判断は正当である。

理由

当裁判所も、特許庁昭和六一年判定請求第六〇〇五八号事件における控訴人の昭和六二年八月八日付け異議申立て(本件異議申立て)は却下されるべきものと判断する。その理由は、原判決の理由説示のとおりであるから、これをここに引用する。

よつて、控訴人の本件控訴は、失当であるからこれを棄却することとし、控訴費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九五条、第八九条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 藤井俊彦 裁判官 春日民雄 裁判官 岩田嘉彦)

控訴の理由

(一)尋問書の瑕疵

特許法改正により同法第三六条の但し書に基づき、実施態様に該当する旨を判定依頼した件に就き、適合性を欠くとし、特許法第七一条の判定は、特定の「物又は方法が特許発明の技術的範囲に属するか否かについて判断する制度」としている問題。

実施態様が法制代されている次上、特許請求の範囲が実施態様型式に属するか否かを判定する事に同法に適合しないとする事は出来ない.

又「物又は方法…判断する制度」としているのは(イ)判例の(ロ)「判例内容」をそのまま引用したものである.

当時は必須構成要件しかなく、「特定の物又は方法」を示す必要があった。従って(ロ)「判例内容」を適用出来るのは必須構成要件のみに限られる事となり、適合しないとする尋問は瑕疵がある.

(二)尋問書の瑕疵

尋問書に於いて、「特許法第三十六条第四項(昭和六〇年五日法律四十一号により旧五号を繰上)にいう「その発明の実施態様」はその(同一出願の)発明の詳細な説明に記載された内容の範囲内のものをいうのであって第二八三八〇四号特許の発明が別出願の特願昭五二-一一五九三九号に係る発明の実施態様になることは法律上はあり得ないというべきである.

(もし、A特許発明の構成が、先願にかかるB特許発明の実施態様に相当するものであると仮定すると(本来の原則からいうと)A特許発明は先願にかかるB特許発明と実質的に同一であって、A特許は無効理由を有することとなるということができる。」としている。

被告は形式上の事実を認めない様にする為、特許法改正の要点を偽り脅しをかけている.

昭和六〇年五月の改正(甲第十一号証)は、

第一、一の発明について独立形式、従属形式にかかわりなく、多面的で自由な表現によって複数の請求項を記載できることとし、新規性、進歩性等の判断については、イロ々の請求項ごとに独立して判断していくこととする。

第二、一定の技術開発の流れの下にある相互に密接な関係のある発明について欧米主要国並みに同一の願書で出願できることとし、独立形式に限るという記載形式の制限も撤発すること.

第三、第一点と第二点が合せて出てくる効果として複数の請求項を記載する場合に単一性を滿たす限りにおいて、それらの請求項が相互に別発明を表現しているか、同一発明を表現しているか問わないこととする。と規定している。

行政法秩序の第一次的形成権は、原則として行政権に専属し裁判所は処分の適法性の事後審査にとどまるべきであるとすれば、処分の違法性の判断は原則として処分時を基準とするとみるのが妥当である。(最判昭和二十七年一月二十五日)

この判例により本件特許の判定の処分は甲第十一号証が対象となる事は明らかである。

にも拘らず尋問書で「発明の詳細な説明に記載きれた内容の範囲内をいうものであって……法律上はあり得ない……無効理由を有することなる。」としている点である。

この尋問でいうA特許とは一変速機用レバーのグリップ」であり、Bとは「エンジンの運転装置」の事で、甲第四号証の前に公告決定の謄本が送達はされたものの特許公告となっていない状態で、この判定を強行すれば本件特許を無効にすると脅している。

この脅しに屈し、甲第九号証の通り、

「特許第一一八三八〇四号の発明が特願昭五二年一五九三九号の係る発明の実施態様となり得べくもなく、小生の記載に誤りがありましたので撤回致します。従いまして、特許第一一八三八〇四号に係る技術的範囲の判定を求める為別紙の通り手続補正を致します。」として手続補正により(イ)号物件(トヨタ自動車)を対象とし、技術的範囲を求めさせられたのである。

本件特許は甲第十一号証の第二にいう、一定の技術開発の流れの下にある相互に密接な関係のある発明に該当するものである.がしかし技術的範囲を求めさせる事により、(二)判定内容にいう「單なる見解の表明」を適用出来る.とする裁決の権限の瑕疵がある.

つまり、不正な動機に基づいた尋問に相当する。

(三)判定の瑕疵

甲第一号証判定の結論

(イ)号図面およびその説明書に示す「自動車の変速機用レバーのグリップに装着したオーバードライブの切換スイッチ」は特許第一一八三八〇四号発明の技術範囲に属しない。と下している点てある。

特許法第七〇条は特許請求の範囲の記載に基いて定めなければならない。とあり特施現二四〇二に実施態様に該当する範囲の記載も定めている.

つまり、特許法第七一条の判定は必須構成要件と実施態様を含めたものの技術的範囲を示す事が規定されている。

しかし、判定の結論で「……技術範囲に属しない、」と下しているのは、本件特許の技術範囲を示したに過きず何の意味もないものとなる。

若し、この「技術範囲」を瑕疵なしとするならば、特許権の実貭的権利侵害の横行を特許庁自ら認めようとしているもので、断じて許される問題ではない。

技術的範囲を示して始めて、特許法第七一条に適法するものであり、瑕疵あるものの判定は同法第七一条に違反するものである。

(四)判定の瑕疵

甲第一号証判定には均等についての記載は一切示されていない点にある.

昭和六三年五月二九日の上告審に於いて、

「登録請求の範囲の文言のみに拘泥するときは実貭的権利侵害の横行を防止することが出来ないのであって、この様な歓点から、登録請求の範囲の記載文言をとおして本来出願人が意図した意味そのもの、すなわち、文言の意味する真の意味を探究して補充的に解釈することは許される」として均等論を支持している。

つまり、均等論を示す事により、始めて技術的範囲としての正当性が認められるものであって、均等について何も示さずに正規の判定とする事は出来ない。

均等については、次に記載する原則(甲第九号証)に基づいて判定する。

特許発明の保護範囲の基本原則、原則(四)

「特許発明の保護範囲における均等範囲と、特許権付与の審査における公知発明の後願排除の均等範囲とは、その最も広い範囲をひとしくする。」としている。

甲第八号証の審判事件では、特許法第二九条二項の規定を適用している。つまり原則が適用されている。特許庁の都合で特許法を私物化する事は許されるべき問題ではなく、明らかに瑕疵がある。

以上の通り本件特許に係る判定に就さ、四件に及ぶ瑕疵が存在する。

これらの瑕疵が存在する限り、適法の下に下した判決を引用する事は違法である。

その上本件特許が特許法第三六条第五項の但し書きに該当する場合尚更できない.

甲第九号証の三百八十五頁の「特許権侵害訴訟における裁判所の審理範囲」で

「請求範囲の多項性の記載については三六条第五項の定める一発明における上位、下位の従属関係は裁判所を拘束する」と定義付けている。

この定義付けは東京地裁昭和四十一年(行ウ)二十二号「判定は単なる公式の見解で鑑定的性貭にとどまる。」とする判決を契機に、特許権の保護を目的に当事者間の紛争確定させる目的で、制定したものである。

裁判所を拘束するものに法的効果がないとする理論は絶対成立しない.従って特許庁の都合で法律を自在にする事は不可能である。

この判定は、判定請求時より違法性を帯びており特許法に内在する目的と異った不正な動機に基づいて裁量権を行使した場合、処分は違法として取消しを免れないものである。(行訴法三〇条)

従って裁決固有の瑕疵があるものの処分の取消しを求めると共に、裁量権の濫用によるものであるので本件特許の権利範囲を甲第九号証を基に裁決を下して頂く為の控訴である.

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